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その日、鷹栖の帰宅が遅くなるという連絡が携帯に入り
千夜呼はいつもよりゆっくり、夕飯の買い物を済ませた。

帰り道には、児童公園が一つあった。
大きな木、すべりだい、砂場、そしてブランコ。
それしかない、小さな公園。

夕方だからだろうか、それともこのご時世ゆえだろうか。
子供の姿はなく、秋のニオイが混じった風が寂しく吹き抜けていた。


千夜呼は大好きなブランコに座った。
キィ、キィと乾いた音がリズムを刻む。
それにあわせて、幼児番組のテーマソングを口ずさんでいると
いつの間にか、目の前に良く知る顔があった。

「師匠。」
「やっぱお前か。」


虎太郎は隣のブランコに腰を下ろし、千夜呼と話をする事にした。
『二人だけの秘密を共有する』事となった日以来、あまり二人きりで
会って話をする事がなくなっていた。

千夜呼が酷く幼児退行したり、過去の記憶が曖昧にしてしまったのは、まさにこの期間。
原因を特定する事は出来ないが、様々な精神的負荷によるもので
一種の自己防衛システムの様なものだろうと、知り合いの医者は言う。
その要因、少なくとも一部は自分にあったと、虎太郎はずっと後悔していた。
だが、どうするのが一番『正しい』のか、未だ分からずにいた。

「ししょ、頭いたいいたいでス?」
「……あー、そんなんじゃねーよ。」

痛いの痛いの飛んでけ、そう言っておどける千夜呼。
明るい彼女がニセモノだとは言わないが、今も精神下で
涙を流し続けている彼女がいるのかと思うと、虎太郎はやりきれなかった。

「土曜日ね、黒ちゃんとおでかけなんえすよ!」
「黒ちゃんって……。」
「慶おにぃちゃんのオトートでス。」
「……あー、そっか。よかったなー。」
「あい!慶おにぃちゃんも来れるといいんでス…けど…。」

そう言って、一番違和感を感じたのは、実は千夜呼自身だった。
まるで、ジグソーパズルの最後のピースが、見ただけでその場所に
はまらないのが明らかだった時の様な感じ。

では、このピースは何なのだろう。
どこから、きた――?

「千夜呼?」
「ししょ、ちゃこ、ちゃこは……まちがってないえすよね?」

追い詰められたように、おびえた目。
嗚呼、泣き出す寸前の目だ。
嗚呼、また『正解』が分からなくなってきた。

だが、壊すしかないのなら、誰かがいつかは壊さなければならないものなら
それは自分の役目だと虎太郎は確信する。
誰かがうっかり壊してしまうかもしれない、その前に…。


「千夜呼、慶オニィチャンは今…どこにいんだ?」
「えと、トーキョウ……あれ、岩手?あれれ?」
「思い出せよ、どこか。」
「………。」


千夜呼の中で、慶の顔がスライドショーのようにぐるぐる回る。
けれどどれもセピア色をしていた。
目の前の虎太郎は、こんなにも鮮やかな色をしているのに。

「慶…おにぃ、ちゃん…。」


その時、頭の中で、慶の笑顔が紅く染まった。
思考回路が、焼ききれる音を聞いた。



「なんで、そんなこと、いうの。」
「悪ィ。」
「夢くらい…みたっていいじゃない。」

黒千夜呼、そう虎太郎が呼んでいた彼女の声を、久しく聞いた。
落ち着いたトーンだけれど、これが何より千夜呼の素直なココロの声。
泣き叫ばれるよりずっと切ない、ココロの声。


「ずっと、一緒にいてくれるって言ったのよ。」
「うん。」
「迎えに来てくれるって、お嫁さんにしてくれるってヤクソクしたのよ。」
「うん。」
「春には、帰ってくるって……。」
「うん。」

彼女はそれ以上口を開かなかった。
そうして、ブランコを一人おりた。

「千夜呼…っ。」
「独りにして。今はカオ、みたくない。」

虎太郎は伸ばしかけた手を、引っ込めた。
行き場をなくした掌を眺めている間に、金色だった千夜呼の髪は
真黒く戻っていた。

「ごめん。」
「何故?」
「師匠とか言って、何の役にもたたねーよな俺って。」
「ほんとよね。」
「クソ……、なぁ千夜呼、俺…。」

「アリガト。」


消え入るような声でそう言い、一人公園を後にする千夜呼を
虎太郎は黙って見送った。
彼女の背中は、泣いている様にも、笑っている様にも見えた。



 あらゆる不条理で出来ているこの世界で、滑稽に生きているワタシを
 哂いたければどうぞ哂えばいい。
 さぁ、どんな結末が待っているとしても、総て受け入れよう。
 ワタシは所詮、ワタシでしかないのだから。

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御紹介
名前:
異空 千夜呼
生誕:
1991/11/11
御言葉
[09/19 BlackMan]
[09/02 香住]
[08/27 健斗]
[08/03 あー]
[08/01 香住]

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