生駒吉乃

夜は長いでス。
暗くなるとつい過去のこと思い出しちゃってダメダメなので
バイトを新しくかけ持ちで始めました。

夜のバイトっていっても、えっちぃのじゃないでスよ！
師匠御用達のライブハウスの雑用でス。
色んな音楽も聴けるし、お得なんです。

こないだバイトに行ったら、出演予定のバンドさんが
急にドタキャンしちゃって、困ったって話になって。
たまたま師匠のバンドも出る日だったんですけど、師匠が
「じゃあよ、俺様がギター弾くから、こいつに歌わせんのどう？」
って…、よく分からないうちに、ステージに立たされました。

師匠が色々フォローしてくれて、いきさつとかお客さんに
説明してくれました。
とりあえず自己紹介しろや、って事で。

「飛び入りでお邪魔しまス…えと……。」

自己紹介もそこそこに、一曲だけ歌ってきました。
お客さん、優しい人ばっかりでした。
たくさん拍手もらいました、歌い終わった後、声かけてもらいました。
師匠がライブ最高！っていつも言ってる意味、わかりました。


その日は師匠と一緒に、お家帰りました。
「なぁ、なんだよキツノって、そういや称号でも名乗ってたよな。」

チャコは自己紹介のとき、キツノって名乗ったんでス。
別に【異空千夜呼】の名前がイヤとかじゃなかったんですけど。

「吉乃は…信長様の側室様のお名前でス。」
「へー、相変わらずそういう知識ばっか豊富なのなお前。」
「えへへ、本いっぱい読んでますから。」
「でもよ…どうせ名乗るんなら正室の方にすりゃいいのによ。
　まー、わざわざ側室の方を選ぶなんて、千夜呼らしいけどな。」

そう言って、師匠はチャコの頭をわしゃわしゃ撫でてくれました。