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今宵の満月はキレイ。
人を狂わせる月が、ワタシはとてもスキ。


自然と足はヨンロク号の方へ向かっていた。
頬を撫でる夜風が心地いい。
空を見上げて歩いていると、ふいに後ろから名前を呼ばれた。

「あ……鷹栖、さん?」

こりすちゃん先輩のお父さんでした。
背が高くてかっこよくて男らしい、航空自衛隊員の鷹栖さん。
仕事帰りでしょか、タバコを咥えたままこっちへ走ってきました。
「こんばんはです。」
「こんばんは…って、おめー何してるんだべさこんな時間に、危ねーべや。」
「えへへ、ちょっと用事があったですよ。」
「それはどーーーーーっしても行く必要あるんかい?」
「あう……そういうワケではないでスが。」
「うし、じゃあ帰んべや。送ってくから。」
有無を言わさず、結局家へ強制送還される事になってしまいました。


「鷹栖さんタバコ吸うんですね、知りませんでした。」
「うん、けどうちのお姫さんがうるさいんだわ、だから秘密な?」

そう言って笑う鷹栖さんは、まるでいたずらっ子みたいでした。
師匠いわく、自衛隊では結構エライ立場の人で
"鬼鷹"なんて言われる位コワイ人らしいんですけど
こりすちゃん先輩やチャコには、本当に優しくて…。

チャコからみれば非の打ち所のないヒトですけど
こりすちゃん先輩は『なまらだらしないよ!』って言ってました。



二人で並んで、ゆっくり歩きました。
満月のせいでしょか、大人で器が大きいヒトだからでしょか。
気がついたらチャコは、慶お兄ちゃんの話をしていました。
奥さんを亡くした鷹栖さんなら、解ってくれるかも知れない。
この胸の、忘れられない、消えない痛みを…。


鷹栖さんは相槌を打って、静かに聞いてくれました。

「俺と千夜じゃ状況も立場も違うから、全部はわかってやれんけど…。」
そう言って、チャコの頭を抱き寄せて、撫でてくれました。

「よく頑張って生きてきたなぁ……えらいぞ千夜。」

そう言われて、涙があふれて止まらなくなりました。
生きてきた事を褒められたのは、初めてでした…。
鷹栖さんの服からはタバコと、かすかに香水の匂い。

「もし今後、千夜に好きな奴が出来て、そいつも千夜の事好きになってくれたら
 ちゃんと前に歩きだしなや、それは悪いことじゃねぇから。」
「………はい、鷹栖さんは?」
「俺か?俺はお姫さん一人ですでに手がいっぱいいっぱいだべさ。」
「ふふ。」
「千夜の事も娘みたいに思ってるし、虎も息子みたいなもんだ。」

とっても嬉しかったです。
こりすちゃん先輩に悪い気がして
お父さんって呼ぶことは出来ないですけど。

「チャコ、鷹栖さんの事ダイスキです。」
「だっはっは、そりゃありがとうな!」
「チャコ、鷹栖さんのお嫁さんになりたいでス!!」
「でっ?!いやーそりゃ嬉しいけど、おっちゃん警察につかまっちまうべや…。」
「淫行自衛隊員、って師匠が言ってました。」
「あ…あんのクソバカガキ………殺す!!!」
「ふふ。」



月がさっきよりキレイに見えます。
月も、空も、星も、みんなみんな…。

服の袖をつかませてもらって歩きました。
こんな風に誰かに寄りかかって歩いたのは、何年ぶりでしょか…。
援交オヤジと間違われねぇかな、って鷹栖さんはちょっと焦ってました。
鷹栖さん、全然20代に見えるからダイジョウブなのに。

「また、お話できますか?」
「当たり前しょや、携帯教えるからいつでもかけてきなや。」
「えへへ、はい。」


こんなお父さんがいるこりすちゃん先輩が、とっても羨ましいです。

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名前:
異空 千夜呼
生誕:
1991/11/11
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