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8月13日、夜更け。
ゴーストタウンから一人出てきた桜澤敦司は近くの駐車場を目指していた。
仕事まで、まだ時間に余裕があったため、のんびりと歩を進める。
だがその時突然、背中に大きな衝撃。
手に持っていた車のキーが、音を立てて地面に転がり落ちた。
「おぅ!!!?な、何だ!!?」
慌てて振り向くと、そこには黒髪の少女。
ぶつかった際に鼻を強打したらしく、もがいていた。
「あたたた、お鼻もげそう……っ!!」
「千夜呼・・・ちゃん?何してんの。大丈夫??」
声をかけた瞬間、千夜呼が必死の形相で敦司の口を手で塞いだ。
「シッ!……誰かに、つけられているの。」
「つけられて・・・・って、一体何したんだよ・・・。」
鍵を拾い周囲を見まわすが、誰も見当たらない。
しかし千夜呼は至極真剣な顔をして、こう続けた。
「きっと武田が放った刺客ヨそうに違いないわ!おのれ信玄……あくまで信長様にタテつく気ねっ!
あーちゃんも首狙われるわ、早くイッショに逃げなきゃ!は、早馬をすぐ用意しなきゃでスっ!」
「刺客・・・・・・・・。」
正気だろうかと一瞬、千夜呼の顔を見つめたが、すぐに諦めてしまった。
まぁ、本当にいるとしたらストーカーか変態くらいだろうと思いつつ
一応周囲から庇う様、さり気なく盾になりながら溜息をこぼした。
「ふぅ・・・逃げるなら乗ってくか?」
顎で指し示した先には、敦司の車。
それを見た千夜呼は、どこか淋しそうな目をした。
「……なんてジダイサクゴな…浪漫がありません….
いえ、ここはゼイタク言ってられませんね、行きましょう。」
突っ込む所は山ほどあるが、それがどんなに無駄か敦司は心得ていたので
千夜呼を助手席へ座らせると、車を走らせる事にした。
流れる景色、千夜呼はゴーストタウンのほうを振り返ると、酷く悪い顔で呟く。
「次に会ったら一人残らず首掻っ切ってやるわ…。」
「イヤ・・・だから一体何と戦ってきたんだよ・・・。」
「で、何処まで行きゃいんだ? 」
少し走ったところで問うと、『どこでも』と曖昧な返事。
湾岸沿いのドライブを提案してみると、千夜呼は目を輝かせた。
「どらいぶ、うみ、すきーすきー☆」
「よっしゃ!!さすがに今日は水着・・・とかは持ってないよ、なぁー・・・。」
「脱げばいいわ、ええ、あーちゃんだけ。」
「ええええええ、俺だけぇぇえええ!?俺の裸見て誰が楽しいんだよ。っつか捕まるわ、陳列罪で!!」
「ちゃこ知ってる!ブタ箱でクサイ飯デショ?」
「よく知ってるな、そうそう!!そうだけど・・・くそっ、喜ぶなっつの!!」
敦司が左手で、千夜呼の頭をわしゃわしゃ撫でた。
嬉しそうに笑う千夜呼を、まるで子猫みたいだ…そう思い、敦司は目を細める。
ふと、会話が途切れた。
敦司がカーラジオに手を伸ばそうとした時、千夜呼がポツリ話し始める。
「……ちゃこね、チョットあーちゃんとお話したいと思ってたのヨ…だからチョウドよかった。」
「おう、なんか珍しいな。改まって、どした?」
「なんとなく、もしかしてちゃこ、あーちゃんのコトちゃんと知らないのかなって……。」
千夜呼はそういって、ぼんやり窓の外眺める。
普段二人は結社内でしか会う機会がない。
それゆえ、二人でゆっくり話をする機会がこれまでなかったのだ。
実際に千夜呼が持っている敦司のイメージを伝えると、当てはまるものはほとんど無かった。
「やっぱり、ちゃこはあーちゃんのことゼンゼン知らなかったのネ。」
「・・・俺も、千夜呼ちゃんのこと、きっと知らないことたくさんあるよ。」
そして二人は暫く、お互いの話をした。
故郷のこと、家族のこと、こんな機会がなければ話せなかったであろうこと…。
まったく違う世界で生きてきた二人だから、それはなかなか興味深かった。
話をしているうち、気付けばもう海沿いまで来ていた。
興奮する千夜呼のリクエストで車を停め、二人は浜辺へ向かう。
「わっはーーーい!!!なにしてるのあーちゃん、はやく来るの、チンレツして!! 」
「陳列はしねぇーーー!!!ったく。」
千夜呼は久しぶりの海に大はしゃぎ、靴を脱ぎ捨てるとバシャバシャ海へ入っていった。
波の音、冷たい水の感触、やわらかい海風。
そして海面に映る、月……。
それを見つけた千夜呼の動きが、ぴたりと止まった。
「千夜呼ちゃん?」
「ちゃこしってる、ヒトは海から生まれたから、死んだら海にかえるの…。」
千夜呼はじっとうつむき、海面を見つめている。
その表情は影となり、うかがい知る事は出来ない。
「千夜呼ちゃんは・・・・・・・・・・かえりたいの?」
聞いてはいけない、聞きたくない言葉が紡がれるかも知れない恐怖からか、一瞬、言葉を躊躇った。
「ちゃこは、うみに、かえ……!!」
消え入りそうに儚い声の直後、突然クマのごとく素手で海を斬ったかと思うと、次の瞬間には
手に魚が握られていた。
「あっは☆これも元はヒトかもしれないと思うと、なんとなく食べにくいでスね!」
偶然か、それとも真意を隠す為の行為かは分からない。
けれどそんなこと、今はどうでもよかったのだ。
敦司は力づくで千夜呼のか細い身体を抱き締めた。
千夜呼の手から魚が離れ、パシャンと水がはねて波紋を作った。
「俺は、海になんかかえしてやんねーけどね。」
「どしたの、あーちゃん?かなしいの…?」
「悲しくないよ・・・千夜呼ちゃん、まだ生きてるし・・・。」
「そう、ちゃこまだ生きてるから、そんな顔すること、ないないのヨ。」
『まだ』、その言葉にを聞いた敦司の脳裏に、いつかの千夜呼の姿が浮かんだ。
死んだ婚約者の影を追い求め、姿を消したあの日の記憶が蘇る。
あれから元気な姿を見せるようになったとはいえ、目を離したスキに消えてしまいそうな
儚い『色』を、千夜呼はいつもどこか、ずっと纏っていた。だから――。
「…そうだ、忘れてた。」
「どした・・・。」
「んとね、あーちゃんのコト結局よく知れてないけど、だけどちゃこね、あーちゃんのことダイスキよ?
キャンペーン中なの、ちゃんと思ってること伝えておこうキャンペーン。
師匠よろこんでくれた、あーちゃんも、よろこんでくれう?」
腕の中で、ふんわりと微笑む千夜呼。
敦司は抱き締める腕に更に力を込めると、千夜呼の耳元の頬を寄せた。
「すっげー・・・・嬉しい。俺も、千夜呼ちゃんのこと、大好きだよ。
今は、そんだけで・・・・・充分・・・・。」
「あは、よかった…よかったんだけど、ちょ、あーちゃん近いの。さすがにチョット照れる!離れてー!」
「・・・・なんだよ、感謝のちゅーをお見舞いしてやろうと思ったのに。」
敦司の説得も空しく『感謝の』という部分に全力で不信感を抱く千夜呼。
「そ、そもそも怒られるのヨ!ちゃこ知ってる、あーちゃんがよくイッショにいる
綺麗なおねーさん見たことあるもん。」
腕の中でもがく千夜呼を仕方なく開放しつつ、敦司は心当たりのなさに首を捻る。
「黒い服の、おねーさん。彼女だと思ってたの、違うの? 」
「あー・・・・・アレはね、友達っつか、仲間かな。彼女じゃないよ。
だって、俺千夜呼ちゃんのこと好きだし。」
「………は?」
「・・・・・・・つか、もしかして気付いてなかったのかな」
呆けた顔でフリーズしている千夜呼に、敦司はやれやれと呆れた。
結社の中でも、気付いていないのは千夜呼くらいなものだ。
それだけオープンにしているつもりだったのだが…。
「…き、きかなかったことにしても、いいですか。」
「いいよ。毎日、会うたび言うから♪」
「ひぃ!!な、な、な、のぁ!! よし、信じませんっっ!」
「あははははははははは!!!しょーがねぇな、もう! じゃあ、どうしたら信じてくれる?」
「そ、そ、そんなこと、ちゃこに聞かれても……っ。」
「じゃあ、信じてくれるまで言い続けるか。」
余裕の微笑で続ける敦司に、千夜呼は何か言おうとして言葉を詰まらせ、涙目で黙ってしまった。
「あー・・・もう・・・そんな顔すんなって・・・・・ごめん。」
頭を撫でてやると、嬉しいけどどうしていいか分からない、と千夜呼は赤い顔で呟いた。
「どうもしなくていいよ・・・ただ、そうだな・・・・一人、味方が増えたと思えばいい。そんだけだよ。」
「…あーちゃん……。」
「千夜呼ちゃんが、海にかえるときが来るまで・・・・俺は、味方だ。ずっと・・・・・・・。」
海にかえるとき、それが何を意味するのか、敦司がどういう意味で、どういう気持ちで
その言葉を言ったのか、千夜呼には分かっていた。
だからとても、嬉しかったのだ。
この人は自分の魂を、殺さない……と。
「ほら、濡れっぱなしだと風邪ひくし。車にタオルあるから戻ろう。」
「……、…手。」
「ん?・・・・ああ・・・・。」
躊躇いがちに出された白い手を、敦司は照れながらも取った。
千夜呼は安心した顔で微笑むと、柔らかく握り返す。
そこでふと、思い出した。
「……ねぇ、仕事行かなくていいんでス?」
「・・・・!!!!!やべっ・・・・・・!!店終わるまでに行きゃなんとかなるだろ・・・・
大丈夫、多分・・・・・こっちのが、今んとこ大事!!」
振り切るように顔をあげた敦司だったが、逆に叱られてしまった。
手を引かれ急ぎ車まで戻ってくると、助手席の扉を開けてやり千夜呼を座らせた。
「…あのね、あーちゃん、ありがと。」
視線を落としたまま、ふいに千夜呼が呟いた。
その表情は、とても穏やかだった。
ドアに手をかけ閉めようとしたその時……千夜呼の頭に、唇が触れた。
「へっへーーーー!不意打ちじゃ!!」
「 !!!!!!!!わぁあああああああああああああっ?!」
「よっしゃー、飛ばすぜーーー♪」
エンジン音と千夜呼の叫び声が、静かな湾岸沿いにこだましていた―――。
ゴーストタウンから一人出てきた桜澤敦司は近くの駐車場を目指していた。
仕事まで、まだ時間に余裕があったため、のんびりと歩を進める。
だがその時突然、背中に大きな衝撃。
手に持っていた車のキーが、音を立てて地面に転がり落ちた。
「おぅ!!!?な、何だ!!?」
慌てて振り向くと、そこには黒髪の少女。
ぶつかった際に鼻を強打したらしく、もがいていた。
「あたたた、お鼻もげそう……っ!!」
「千夜呼・・・ちゃん?何してんの。大丈夫??」
声をかけた瞬間、千夜呼が必死の形相で敦司の口を手で塞いだ。
「シッ!……誰かに、つけられているの。」
「つけられて・・・・って、一体何したんだよ・・・。」
鍵を拾い周囲を見まわすが、誰も見当たらない。
しかし千夜呼は至極真剣な顔をして、こう続けた。
「きっと武田が放った刺客ヨそうに違いないわ!おのれ信玄……あくまで信長様にタテつく気ねっ!
あーちゃんも首狙われるわ、早くイッショに逃げなきゃ!は、早馬をすぐ用意しなきゃでスっ!」
「刺客・・・・・・・・。」
正気だろうかと一瞬、千夜呼の顔を見つめたが、すぐに諦めてしまった。
まぁ、本当にいるとしたらストーカーか変態くらいだろうと思いつつ
一応周囲から庇う様、さり気なく盾になりながら溜息をこぼした。
「ふぅ・・・逃げるなら乗ってくか?」
顎で指し示した先には、敦司の車。
それを見た千夜呼は、どこか淋しそうな目をした。
「……なんてジダイサクゴな…浪漫がありません….
いえ、ここはゼイタク言ってられませんね、行きましょう。」
突っ込む所は山ほどあるが、それがどんなに無駄か敦司は心得ていたので
千夜呼を助手席へ座らせると、車を走らせる事にした。
流れる景色、千夜呼はゴーストタウンのほうを振り返ると、酷く悪い顔で呟く。
「次に会ったら一人残らず首掻っ切ってやるわ…。」
「イヤ・・・だから一体何と戦ってきたんだよ・・・。」
「で、何処まで行きゃいんだ? 」
少し走ったところで問うと、『どこでも』と曖昧な返事。
湾岸沿いのドライブを提案してみると、千夜呼は目を輝かせた。
「どらいぶ、うみ、すきーすきー☆」
「よっしゃ!!さすがに今日は水着・・・とかは持ってないよ、なぁー・・・。」
「脱げばいいわ、ええ、あーちゃんだけ。」
「ええええええ、俺だけぇぇえええ!?俺の裸見て誰が楽しいんだよ。っつか捕まるわ、陳列罪で!!」
「ちゃこ知ってる!ブタ箱でクサイ飯デショ?」
「よく知ってるな、そうそう!!そうだけど・・・くそっ、喜ぶなっつの!!」
敦司が左手で、千夜呼の頭をわしゃわしゃ撫でた。
嬉しそうに笑う千夜呼を、まるで子猫みたいだ…そう思い、敦司は目を細める。
ふと、会話が途切れた。
敦司がカーラジオに手を伸ばそうとした時、千夜呼がポツリ話し始める。
「……ちゃこね、チョットあーちゃんとお話したいと思ってたのヨ…だからチョウドよかった。」
「おう、なんか珍しいな。改まって、どした?」
「なんとなく、もしかしてちゃこ、あーちゃんのコトちゃんと知らないのかなって……。」
千夜呼はそういって、ぼんやり窓の外眺める。
普段二人は結社内でしか会う機会がない。
それゆえ、二人でゆっくり話をする機会がこれまでなかったのだ。
実際に千夜呼が持っている敦司のイメージを伝えると、当てはまるものはほとんど無かった。
「やっぱり、ちゃこはあーちゃんのことゼンゼン知らなかったのネ。」
「・・・俺も、千夜呼ちゃんのこと、きっと知らないことたくさんあるよ。」
そして二人は暫く、お互いの話をした。
故郷のこと、家族のこと、こんな機会がなければ話せなかったであろうこと…。
まったく違う世界で生きてきた二人だから、それはなかなか興味深かった。
話をしているうち、気付けばもう海沿いまで来ていた。
興奮する千夜呼のリクエストで車を停め、二人は浜辺へ向かう。
「わっはーーーい!!!なにしてるのあーちゃん、はやく来るの、チンレツして!! 」
「陳列はしねぇーーー!!!ったく。」
千夜呼は久しぶりの海に大はしゃぎ、靴を脱ぎ捨てるとバシャバシャ海へ入っていった。
波の音、冷たい水の感触、やわらかい海風。
そして海面に映る、月……。
それを見つけた千夜呼の動きが、ぴたりと止まった。
「千夜呼ちゃん?」
「ちゃこしってる、ヒトは海から生まれたから、死んだら海にかえるの…。」
千夜呼はじっとうつむき、海面を見つめている。
その表情は影となり、うかがい知る事は出来ない。
「千夜呼ちゃんは・・・・・・・・・・かえりたいの?」
聞いてはいけない、聞きたくない言葉が紡がれるかも知れない恐怖からか、一瞬、言葉を躊躇った。
「ちゃこは、うみに、かえ……!!」
消え入りそうに儚い声の直後、突然クマのごとく素手で海を斬ったかと思うと、次の瞬間には
手に魚が握られていた。
「あっは☆これも元はヒトかもしれないと思うと、なんとなく食べにくいでスね!」
偶然か、それとも真意を隠す為の行為かは分からない。
けれどそんなこと、今はどうでもよかったのだ。
敦司は力づくで千夜呼のか細い身体を抱き締めた。
千夜呼の手から魚が離れ、パシャンと水がはねて波紋を作った。
「俺は、海になんかかえしてやんねーけどね。」
「どしたの、あーちゃん?かなしいの…?」
「悲しくないよ・・・千夜呼ちゃん、まだ生きてるし・・・。」
「そう、ちゃこまだ生きてるから、そんな顔すること、ないないのヨ。」
『まだ』、その言葉にを聞いた敦司の脳裏に、いつかの千夜呼の姿が浮かんだ。
死んだ婚約者の影を追い求め、姿を消したあの日の記憶が蘇る。
あれから元気な姿を見せるようになったとはいえ、目を離したスキに消えてしまいそうな
儚い『色』を、千夜呼はいつもどこか、ずっと纏っていた。だから――。
「…そうだ、忘れてた。」
「どした・・・。」
「んとね、あーちゃんのコト結局よく知れてないけど、だけどちゃこね、あーちゃんのことダイスキよ?
キャンペーン中なの、ちゃんと思ってること伝えておこうキャンペーン。
師匠よろこんでくれた、あーちゃんも、よろこんでくれう?」
腕の中で、ふんわりと微笑む千夜呼。
敦司は抱き締める腕に更に力を込めると、千夜呼の耳元の頬を寄せた。
「すっげー・・・・嬉しい。俺も、千夜呼ちゃんのこと、大好きだよ。
今は、そんだけで・・・・・充分・・・・。」
「あは、よかった…よかったんだけど、ちょ、あーちゃん近いの。さすがにチョット照れる!離れてー!」
「・・・・なんだよ、感謝のちゅーをお見舞いしてやろうと思ったのに。」
敦司の説得も空しく『感謝の』という部分に全力で不信感を抱く千夜呼。
「そ、そもそも怒られるのヨ!ちゃこ知ってる、あーちゃんがよくイッショにいる
綺麗なおねーさん見たことあるもん。」
腕の中でもがく千夜呼を仕方なく開放しつつ、敦司は心当たりのなさに首を捻る。
「黒い服の、おねーさん。彼女だと思ってたの、違うの? 」
「あー・・・・・アレはね、友達っつか、仲間かな。彼女じゃないよ。
だって、俺千夜呼ちゃんのこと好きだし。」
「………は?」
「・・・・・・・つか、もしかして気付いてなかったのかな」
呆けた顔でフリーズしている千夜呼に、敦司はやれやれと呆れた。
結社の中でも、気付いていないのは千夜呼くらいなものだ。
それだけオープンにしているつもりだったのだが…。
「…き、きかなかったことにしても、いいですか。」
「いいよ。毎日、会うたび言うから♪」
「ひぃ!!な、な、な、のぁ!! よし、信じませんっっ!」
「あははははははははは!!!しょーがねぇな、もう! じゃあ、どうしたら信じてくれる?」
「そ、そ、そんなこと、ちゃこに聞かれても……っ。」
「じゃあ、信じてくれるまで言い続けるか。」
余裕の微笑で続ける敦司に、千夜呼は何か言おうとして言葉を詰まらせ、涙目で黙ってしまった。
「あー・・・もう・・・そんな顔すんなって・・・・・ごめん。」
頭を撫でてやると、嬉しいけどどうしていいか分からない、と千夜呼は赤い顔で呟いた。
「どうもしなくていいよ・・・ただ、そうだな・・・・一人、味方が増えたと思えばいい。そんだけだよ。」
「…あーちゃん……。」
「千夜呼ちゃんが、海にかえるときが来るまで・・・・俺は、味方だ。ずっと・・・・・・・。」
海にかえるとき、それが何を意味するのか、敦司がどういう意味で、どういう気持ちで
その言葉を言ったのか、千夜呼には分かっていた。
だからとても、嬉しかったのだ。
この人は自分の魂を、殺さない……と。
「ほら、濡れっぱなしだと風邪ひくし。車にタオルあるから戻ろう。」
「……、…手。」
「ん?・・・・ああ・・・・。」
躊躇いがちに出された白い手を、敦司は照れながらも取った。
千夜呼は安心した顔で微笑むと、柔らかく握り返す。
そこでふと、思い出した。
「……ねぇ、仕事行かなくていいんでス?」
「・・・・!!!!!やべっ・・・・・・!!店終わるまでに行きゃなんとかなるだろ・・・・
大丈夫、多分・・・・・こっちのが、今んとこ大事!!」
振り切るように顔をあげた敦司だったが、逆に叱られてしまった。
手を引かれ急ぎ車まで戻ってくると、助手席の扉を開けてやり千夜呼を座らせた。
「…あのね、あーちゃん、ありがと。」
視線を落としたまま、ふいに千夜呼が呟いた。
その表情は、とても穏やかだった。
ドアに手をかけ閉めようとしたその時……千夜呼の頭に、唇が触れた。
「へっへーーーー!不意打ちじゃ!!」
「 !!!!!!!!わぁあああああああああああああっ?!」
「よっしゃー、飛ばすぜーーー♪」
エンジン音と千夜呼の叫び声が、静かな湾岸沿いにこだましていた―――。
RP Thanx:Atsushi Sakurazawa
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御紹介
名前:
異空 千夜呼
生誕:
1991/11/11
過去録